スピーカーユニットの選び方


 スピーカーユニット(以下ユニット)は電気を音に変える、スピーカーの中で最も重要な部品です。車ならエンジン、パソコンならCPUでしょうか。


★スピーカーの構成★

・1Way(フルレンジ) 全帯域や広帯域やワイドレンジとも言い、1種類のユニットで低音から高音まで全ての周波数帯域を出すことを目指した基本的かつ理想的な構成です。安価で単純で作りやすく、1か所から音が出るので定位も優れます。しかし実際は1種類のユニットで全帯域を再生することは実現できておらず、高域を高域共振や分割振動に頼るフルレンジは周波数特性の凹凸も歪みも大きいです。特に大口径フルレンジは指向性も劣悪です。小さく安く軽く簡単にしたい場合や、元々低音が出ない小口径システムに限られた構成です。

・2Way フルレンジでは性能が足りない場合に低音用ユニットと高音用ユニットの2種類を組み合わせます。高音と低音をそれぞれ専用のユニットに負担させられるので、広帯域かつ高性能を実現できます。ネットワークが必要なので、調整には技術と経験と設備が必要です。

・3Way 2Wayでは性能が足りない場合に中音専用ユニットを追加して使います。2Wayより更に広帯域かつ高性能を実現できますが、ネットワークの調整も更にややこしくなってきます。

・4Way 5Way 6Wayなんてのもあります。


★スピーカーユニットの種類★

・フルレンジ 前述の通りです。

・ウーファー 低音に特化したユニットです。低音を確保したうえで、極力高くまで出るウーファーが良いウーファーです。

・スコーカー 中音に特化したユニットです。幅広い帯域を再生できるスコーカーが良いスコーカーです。フルレンジやウーファーを使う場合もあります。

・ツィーター 高音に特化したユニットです。高音を確保したうえで、極力低くまで出るツィーターが良いツィーターです。


★ウーファーの大きさ★

 ウーファーの大きさはスピーカーシステムの特に低音の再生限界を決める非常に重要な要素です。大きいほど後述の最低共振周波数が低く、空気を動かす面積や、振動板の動きを音にする能力や放射インピーダンスが高く、最低域が伸びます。ただし大きいほど中高音が出にくくなり、大きいエンクロージャが必要になり、場所を取り、重く、高価になります。当店としては設置場所や予算が許す限り大きいものをお勧めします。ユニットの外側寸法(口径)と取り付け寸法を良く見てお選びください。

 正確に言うと、外側寸法ではなくて振動板の大きさです。外側寸法が大きくても枠やフランジが太くて振動板が小さくては駄目です。後述の実効振動板半径が大きいものがお勧めです。


★ツィーターの大きさ★

 ウーファーとは逆に小さいほど良いです。小さいほど振動板が軽いので早く動け、高い音まで出ます。また高音は指向性が強いので、小さいほど点音源に近づき、音が一点から全方向に球面状に均一に放射されやすくなります。更に外形寸法も小さい方が他のユニットに近づけて配置できるので、全体としても点音源に近づき定位が向上します。ただし振動板が小さいと音量も小さいのでほどほどに。


★インピーダンス Z [Ω]

 交流に対する抵抗です。直接音質との関係はありません。正確には「最低」インピーダンスです。お使いのアンプの仕様表に「何Ω以上に対応」と書いてあるはずなので、対応範囲内のユニットをお選びください。アンプの対応インピーダンス範囲よりスピーカーのインピーダンスが高い場合は電気が流れにくいのでアンプの最大出力まで出ない可能性があります。逆にアンプの対応インピーダンス範囲よりスピーカーのインピーダンスが低い場合は電気が流れやすいので、電気が流れ過ぎてアンプが壊れる可能性があります。ただ実際は家庭で使う程度の音量なら多少は対応範囲を下回っても問題ない場合が多いです。勿論対応範囲外で使ってアンプやスピーカーが壊れてもアンプメーカーもスピーカーメーカーも保障してくれませんので自己責任です。

 ユニットが複数種類の場合は、全ユニットの中で最低のインピーダンスがスピーカーシステム全体としてのインピーダンスになる場合が多いです。例えばウーファー4Ω、スコーカー8Ω、ツィーター16Ωであれば、完成したスピーカーシステム全体は4Ωになる場合が多いです。また全ユニットのインピーダンスは揃えた方が望ましいですが、揃えたところで特別良い事が起きる訳では無いので、揃えなくて構いません。


★能率 感度 Sensitivity [dB/W/m] [dB/V/m] [dB/2.83V/m]

 電気を音に変換する際の効率です。直接音質との関係はありません。例えば90dB/W/mというのはそのスピーカーに1Wの電力を入力した時に、1m離れた場所で、90dB SPLの音圧レベルになるという意味です。単位電力ではなく単位電圧の場合はdB/V/mやdB/2.83V/mという単位を使う事もあります。数値が大きいほど少ない電力で大きな音を出せます。あまり高いとアンプの無音時サーノイズが聞こえやすいです。75~110dB/W/mくらいまで売られていて、85~95dB/W/mくらいが使いやすいです。

 ユニットが複数種類の場合は全ユニットの能率が同じだと、能率合わせの為の減衰器が不要なので非常に好ましいです。ウーファーよりツィーターの能率が高い場合はツィーターに減衰器を使い、能率を合わせます。能率差が3dB程度なら減衰器を使わずにチューニングで平坦特性にできる場合もあります。


★最低共振周波数 FS F0 [Hz]

 そのユニットが共振を起こす最低の周波数です。低音の再生限界に深く関わる重要な数値です。低いほど良いです。


★共振尖鋭度 QTS

 最低共振周波数周辺での共振の尖鋭度です。どれくらい共振しやすいかを示す、音質に関わる大事な数値です。数値が大きいと共振しやすく、制動が効かず、過渡特性が悪く、低音が出やすく、大きなエンクロージャー容積が必要です。数値が小さいと共振しにくく、制動が効きやすく、過渡特性が良く、低音が出にくく、小さいエンクロージャー容積で済みます。大きすぎても小さ過ぎても駄目で、使いやすい範囲があります。0.1~2くらいまで販売されていて、バスレフや密閉には0.15~0.8くらまではまぁ使えて、0.25~0.5くらいが使いやすいです。0.8以上は特殊用途向けや音質を求めない用途向けだと思います。


★等価柔軟性空気体積  VAS [ℓ]

 等価柔軟性空気体積はユニットの支持系の柔軟性を、同じ柔軟性になる空気の体積で表した量です。音響工学では等価コンプライアンス空気体積と言いますが、一般の日本人には等価柔軟性空気体積の方が分かりやすいと思います。もっと砕いて「同じ柔らかさの空気の量」でどうでしょう。例えば等価柔軟性空気体積が大きいという事は、空気の量が多く、柔軟性が大きく、振動板を押すと良く動き、支持系が柔らかいという事です。緩衝材のプチプチと浮き輪では大きい浮き輪の方が柔らかいですよね。等価柔軟性空気体積が大きいと過渡特性が良く、大きなエンクロージャー容積が必要です。小さいと逆です。

 因みに等価柔軟性空気体積を平坦容積や、この定数倍が理想容積だと勘違いしている方がいますので注意してください。比例はしますがね。


★実効振動板半径 a [mm]

 外側寸法や呼び口径ではなく、実際に振動板として有効な半径です。エッジの一部も振動板と一緒に振動しているので、一般的にエッジの中心までを実際に振動している有効な振動板の大きさとみなします。つまりユニットの中心からエッジの中心までの距離です。エッジが細いと外径の割に実効振動板を大きくできますが、振幅が犠牲になります。逆にエッジが太いと外形の割に実効振動板半径が小さくなりますが、振幅を大きくできます。枠やフランジは細い方が実効振動板半径を大きくできるので望ましいです。


★振動系等価質量 MMS M0 [g]

 そのまま振動系の質量です。振動板だけではなく、ボイスコイルと、ダンパーやエッジや引き出し線や振動板前後の空気の質量の一部も含まれています。重いと低音が出て、過渡特性が悪く、小さなエンクロージャー容積で済みます。軽いと低音が出にくく、過渡特性が良く、大きなエンクロージャー容積が必要です。


★最大入力 PE [W]

 ユニットにどれだけの電力を入力しても壊れないかという数値です。直接音質との関係はありません。かなり独り歩きしている言葉なので一般家庭で使う音量なら気にする必要はありません。インピーダンスと能率にもよりますが、近接用なら5W、広めの部屋でも10Wも入力すれば十分過ぎる煩い音が出せます。余裕を見ても20Wあれば十分でしょう。レースに出ないのに車を買う時に最高速を気にしても意味無いです。


★補足★

 実効振動板半径と振動系等価質量が分かれば、等価柔軟性空気体積と相互算出できます。

 製造元が公称する諸元数値も各種特性グラフも当てにならない場合が殆どです💢当てになるのは寸法くらいです。ですので製造元が公称する諸元数値をあまり気にしても意味は無く、大体で選んであとは現物を測定するしかありません。現物測定が不可能な場合は公表数値で大体予想しておき、あとは最終目的である「音」を測定して調整する技術が大事です。

 PA用ウーファーやホーンツィーターは能率と大音量の為に音質が犠牲になっているので、音質重視の場合はやめた方が良いです。


★取り寄せと送付について★

 国内かつ新品のみ取り寄せも承ります。当店がお客様のご希望のユニットをお客様に代わって取り寄せ、オーダーメイドスピーカーとして完成させ納品いたします。取り寄せの場合の料金は 基本料金 + ユニット外口径例料金 + 取寄せ実費 です。

 お客様がお持ちのユニットをお客様から当店に送付していただいてのオーダーメイドスピーカー制作も承っております。中古品でも可能です。ユニットを送れば完成品スピーカーになって帰ってくるので、お客様の時間と労力と道具設備代を省けます。送付の場合は 基本料金 + ユニット外寸比例料金 で、送料と運送リスクはお客様持ちです。