大口径1発バスレフしか勝たん

結論① 大口径しか勝たん。大口径ほど直径の4乗的に有利

結論② 1発しか勝たん。ウーファーを増やすと低音が減るので、高音質の為には1発が至高

結論③ バスレフしか勝たん。人類は未だにバスレフを超える形式を発明できていない。


 ご存じない方もいらっしゃったのでまとめておきます。勿論当店のお勧めも大口径1発バスレフです。良い音が欲しい方は設置場所を確保していただいて大口径1発バスレフを使うと幸せになれると思います。良い音が必要ない方は小さい方が邪魔にならなくて良いと思います。何でもそうですが理想の性能は無限ですので、音源にどれだけ低音が入っているかや、距離や部屋の広さによって口径何cmというのは根拠になりません。結局自分がどれだけ良い音で聞きたいか、どれだけ性能が欲しいか、どれだけ設置場所と予算を差し出せるかで決めるしかありません。大好きな音楽や映画は最高の音で楽しみたいですよね?因みに私はバスドラムが腹に響かないと嫌なので、もし4畳半だとしても大口径1発バスレフで、勿論台形エンクロージャーを使います。結論は上記の通りで、以下に理由や程度や比較を書きましたので興味のある方は読んでみてください。大口径1発バスレフで芸術を余すことなく堪能していただければ幸いです。そして願わくば当店のスピーカーを選んでいただける事を。
 ここでは20~50Hzの音について書きます。小口径とは100mm台、中口径とは200mm以上、大口径とは300mm以上です。小口径の例として振動板直径100mmを、大口径の例として振動板直径460mmを挙げます。ここでは音質に関して書き、高能率や大音量は書きません。

① 大口径しか勝たん理由 = 高音質を求めると巨大化する理由

 まず一つ目の理由は小口径より大口径の方が振動板が重く、最低共振周波数F0が低く、より低い周波数まで振幅を保って動かしやすいからです。ウーファーは低い周波数になってくると振動板が動きにくくなり、振幅や音圧が保ちにくくなります。小口径のF0は60~100Hz程度で、大口径は15~25Hz程度です。元々持っている素質がまるで違います。

 バスブーストやフィードバック制御強制駆動などを使うと、振動板をより低い周波数までより正確に動かせるようになります。小口径と大口径を、何らかの方法でそれぞれ強制的に同じ周波数と振動板振幅と振動板速度と振動板加速度で動かしたとします。どっちが勝つと思いますか?大口径が勝ちます。この2つ目の理由は大口径の方が動かす空気の量、つまり体積が多いからです。低音は振動板から全球方向に拡散し、振動板から離れるほど、部屋が広いほど音圧が減衰します。動かす空気の体積は面積×振幅ですので、振幅が同じなら直径の二乗に比例して増加します。小口径は動かす空気の体積が少なく、スピーカーから離れたり部屋が広いとすぐ減衰してしまいます。対して大口径は動かす空気の体積が多く、スピーカーから離れても部屋が広くても減衰しにくく、部屋中を良い音で満たしてくれます。スピーカーの近くで聞くと迫力があるのに、離れた途端迫力が無くなるのは口径不足です。因みにスピーカーの性能は距離1mでのものが記載される場合が多く、実際の距離が1m以上ある場合は低音はそれより減衰していると思います。距離が遠いほど、部屋が広いほど、大口径にはスペックやF特グラフ以上の価値が出てきます。

 またバスブーストやフィードバック制御すると低音の振幅が増えますが、小口径より大口径の方が歪み出す振幅も最大振幅も大きいので有利です。

 振動板面積が足りないなら、小口径振動板の数を増やして大口径振動板と同じ合計面積にすれば良いのかと言うとそれも違います。100mmを21個で、460mmを1個とほぼ同じ合計振動板面積になりますが、やはり大口径が勝ちます。この理由が大口径しか勝たない真の理由です。振動板が空気を押すと、同じ力で空気も振動板を押し返し抵抗力があります。また音が低いとは音波の間隔・周期が長いという事ですので、低音を再生する為には必然的に振動板をゆっくり動かす必要があります。振動板が小さいと振動板がゆっくり動いて空気を押し出しても周囲に逃げてしまいます。従って暖簾に腕押しと言うか空気に振動板押しで抵抗が無く、圧力が上がりにくく、振動板の動きが音に変換されにくく、低音の音圧は小さいです。しかし振動板が大きいと、振動板がゆっくり動いて周辺の空気は逃げても中心付近の空気は逃げにくく抵抗があり、圧力が上がりやすく、振動板の動きが効率良く音に変換され、低音の音圧は大きいです。例えるとお盆に載せた砂です。お盆が小さくても大きくても周辺の砂は崩れ落ちて円錐状にしか載りませんが、お盆が大きい方がより多くの体積の砂が載ります。スピーカーも似ていて、振動板周辺の空気は逃げてしまい圧力がかからず、中心付近の空気にしか圧力がかかりません。従って小口径より大口径の方が振動板の動きをより低い周波数までより効率良く音に変換できます。これが大口径しか勝たない真の理由です。この際の空気の抵抗、音への変換されやすさを放射インピーダンスと言います。

 次に数値で大小の程度を比較します。放射インピーダンスは振動板直径の4乗に比例します。つまり大口径ほど4乗的に有利です。以下に振動板直径100mmを基準としたときに直径と面積と放射インピーダンスがぞれぞれ何倍あるかという比率を、各振動板直径ごとに示します。

 100mmと460mmを比較すると、直径で4.6倍、面積で21倍、放射インピーダンスで448倍違います。つまり100mmを448個集めて460mm1個と同じ放射インピーダンスと言う事です。いかに大口径の低音再生能力が高いか分かります。因みに現実には放射インピーダンスは正確に4乗に比例とは限らず、バッフル面の大きさや形や周りの空間の違いにより4乗より上がったり下がったりします。

 さて、大きい方が良いのは昔から分かり切っていますが、大きいのは邪魔ですし、理想の性能は無限ですから際限がありません。実際部屋に設置するには設置場所の制限があり、一般的に幅の制限が最も厳しいと思います。幅を抑えつつ性能を稼ぐ方法として、振動板を四角にする方法が挙げられます。丸より四角の方が同じ幅でも端まで使って空気を動かせるので当然面積も放射インピーダンスも稼げて有利です。楕円も同様です。別の方法としては当店お勧めの台形エンクロージャーが挙げられます。エンクロージャーのバッフル面を内側へ傾け、上から見て台形にすることで、同じエンクロージャー幅で一段階大きなウーファーを搭載でき、約1.3倍の面積と約2.4倍の放射インピーダンスを獲得できます。逆に同じ大きさのウーファーで良ければエンクロージャー幅を1段階細くできます。当店の台形エンクロージャーであれば最小の幅で最大のウーファーを設置できますのでお勧めです。

② 1発しか勝たん理由 = 高音質スピーカーのウーファーが1個だけな理由

 これは幼稚園児でも分かる簡単な事で、二人より一人の方が部屋を広々使えるからです。スピーカーは、同じウーファーでもエンクロージャー容積が大きい方が低音の再生限界が下がります。と言う事はウーファーを2個に増やすと1個当たりの容積は半分になるので当然低音が減ります。低音が減らないように1個当たりの容積を変えずにウーファーを2個にするにはエンクロージャー容積を2倍にする必要があります。ところが元の2倍の容積のエンクロージャーでウーファー1個にすれば更に低音の再生限界が下がるので、やはり高音質スピーカーのウーファーは1発しか勝ちません。これが高音質スピーカーのウーファーが1個だけな理由です。と言うかそもそも2個にする必要がありません。

 「幅を狭くしたいので大きいの1個ではなく一段階小さいの2個にする。」は逆効果です。まずウーファーを小さくするとF0が悪化して、根本的に低音が出なくなります。先の通りウーファー1個当たりの容積が半分になるので低音が出なくなります。先の表の一番下の段に示したように、一段階小さい口径の放射インピーダンスを2倍しても元の放射インピーダンスの約8割にしかなりません。そして大きいの1個より一段階小さいの2個の方が必要なエンクロージャー容積が大きくなる場合が多く、余計に大きくなってしまい本末転倒です。口径を小さくすると歪み出す振幅も最大振幅も余計に小さくなります。更に複数ウーファーは位相干渉を起こして音質や指向性が劣化し、特にクロス周波数が高い2Wayで顕著です。ウーファー2個を縦に並べると縦方向に狭く横方向に広い指向性になるのでまだマシですが、横に並べると縦に広く横に狭い指向性になり、幅ばかり増えて最悪です。勿論費用も嵩みます。

 例外としてウーファー2個にかろうじて意味があるのは仮想同軸、特にセンタースピーカーです。仮想同軸は定位向上効果をなかなか感じられず、ウーファー2個の弊害ばかりが目立ち不毛ですが、ウーファー1個で仮想同軸はできないので、何らかの理由で何が何でも仮想同軸が必要な場合は2個にするしかありません。またセンタースピーカーは左右対称にしたいので音質を犠牲にウーファー2個横並び仮想同軸にするのは苦肉の策で仕方がないと思います。自分は仮想同軸にするくらいなら同軸2Way1個にするか、ウーファー1個の普通のスピーカーを縦長でそのまま使うのがお勧めです。ウーファー1個の普通のスピーカーを横倒しで使うのは若干気持ち悪いですが家庭ならそれもありだと思います。それくらいウーファー2個は弊害が多いので避けるべきです。結論に戻ると、ウーファーを増やすと低音が減るので、いかなる幅でも高音質の為にはウーファーは1発しか勝ちません。

③ バスレフしか勝たん理由 = 他形式が不利な理由

 何十年も昔に出揃い未だに新形式が発明されない各形式の特徴を書きます。形式を比較する時は同じウーファー、同じ大きさや容積で考える必要があります。バスレフ、パッシブラジーエーター、サブウーファーならバンドパスまでが高音質で実用的なので当店としてもお勧めです。密閉は永遠の基準でしょうか。その他は面白いですが、音質を求める用途には使われません。全てに共通する原理原則は、「裏側の音をそのまま放射してはいけない。」「吸音材を増やしていくとその形式独自の動作をしにくくなり密閉に近づいていき本末転倒」です。各形式の利点と欠点を理解していただき、是非高性能かつ小型化できる形式で音楽を心行くまで楽しんでいただければと思います。

0 ウーファーそのまま
 ウーファー単体を裸で鳴らしてみると低音が全く出ず、モノによっては数百Hzの中音まで出ず使い物になりません。これは振動板の表側の音と裏側の音が逆位相で出ているので打ち消し合って消えてしまうからです。回折と位相干渉でF特も指向性も劣悪で定位感もありません。最早形式とは言えませんが一応書いておきます。

1 無限平板、後面開放、大きな板
 ウーファー単体だと表側と裏側の音が打ち消し合って消えてしまうので、無限に大きな平らな板…は現実には不可能なので大きな板に取り付けたものです。後面のみを開放した箱の場合もあります。ウーファー単体よりは低音が聞こえやすくなり、板が大きいほど低い音まで聞こえるようになります。20~50Hzまで聞こえるようにするには巨大な板が必要になり家庭には置けません。低音増強効果は無く、非常にダラ下がりに伸びます。因みに大きな板で回折や乱反射を抑えられるので高域は比較的平坦になります。

2 密閉、アコースティックサスペンション
 先の大きな板を折り曲げて箱にして密閉し裏側の音を閉じ込め、更に吸音材で消すようにしたもので、無限平板より圧倒的に小型化できます。ウーファー特性とエンクロージャー容積次第では無限平板よりは-3dBを下げる低音増強効果を得られます。デカ過ぎる密閉は無限平板に近づきひたすらダラ下がりです。スピーカーは楽器ではないので、「共振を極力使わない」という考えでは密閉が正解です。

3 位相反転、バスレフ
 密閉では使っていなかった裏側の不要な逆位相の低音を、空気室とダクトを使って位相反転してから出す事で低音を増強します。不要な音で性能向上するのはこのバスレフ系だけの特権であり、それ以外が不利な理由です。きちんとダクトチューニングを行えば凹凸無く平坦に低音の再生限界を拡張できます。そして裏側の中高音は、内部の吸音材とダクトがハイカットフィルターになるので外に漏れにくく一石二鳥です。欠点はダクトが細いと大音量で風切り音が発生しやすい事です。当店の出口拡大外部バスレフダクト「バスチューバ」である程度低減できます。もう一つの欠点は普通でつまらないです(笑) 何でもそうですが、優れたものは選ばれ普及して普通でつまらないです。

4 低音増強板、パッシブラジエーター、ドロンコーン
 バスレフと同じ原理で低音を増強します。違いはバスレフのダクト内部の空気には支持系がありませんが、パッシブラジエーターには支持系がある点で、厳密には支持系の損失がある分バスレフよりごく僅かに低音が伸びません。利点は内部の中高音が外に出にくい事と、埃や虫が内部に入らない事です。

5 4次バンドパス、6次バンドパス、ケルトン
 エンクロージャーを仕切りで仕切り、その仕切りにウーファーを取り付け、片側を密閉し、もう片側をダクトで外に出したのが4次バンドパスです。同様に両側をダクトを介して外に出したのが6次バンドパスです。振動板が露出しておらず、文字通り特定の帯域の低音しか出ないので通常の全帯域スピーカーには使えません。サブウーファーには非常に向いています。設計で周波数帯域や能率まで弄れるのも面白いところです。ご注文お待ちしております。因みに本形式もパッシブラジエーター化が可能で、内部の中高音が更に外に出にくくなります。

6 二段バスレフ
 バスレフの空気室とダクトを増やして二段階にしたものです。一段バスレフより低音の再生限界が下がるのですが、低音に音が出ない無音帯域が必ずできてしまうという致命的な欠点があり、音質を求める用途には使われません。その減衰帯域以下だけを出すサブウーファーには使えるかもしれません。二段階で共振するので遅延や位相回転も多いです。そして複数の空気室が必要な事から真面目に設計すると巨大化し、同じ大きさの一段バスレフに負けるという悲しい運命を背負っています。三段バスレフにすると無音帯域ができないようにできますが、更に遅延や位相回転が増加し、更に巨大化するので同じ大きさのバスレフに負け以下略。四段、五段以下略

7 共鳴管、TQWT、トランスミッションライン
 長い管にウーファーを取り付けたものです。表側と裏側それぞれに対して、直接開放か共鳴管開放か密閉かの組み合わせがいくつかあり得ます。長い管は管長に応じた周波数で共鳴するので、その周波数とその整数倍の音は大きくなります。逆に言うとそれらの周波数しか大きくなりません。そして残念ながらこれらの増強帯域は非常に狭く限られており、バスレフ系のように広くありません。そして裏側の音は管を通って開放されますので表側の音と打ち消し合って消えてしまいます。これらの結果、低音は基本的には出ず、特定の共鳴周波数のみが出る多点帯域とも言うべき劣悪な音質になります。高音質が必要な用途には使われません。特定の周波数でのみ高能率大音量が必要な試験装置では受注制作例があります。管を相当細くしない限り風切り音が出にくい利点があります。例によって中高音は吸音材で消しやすいので吸音材を多くすれば多点帯域は薄まりますが、同時に増強も薄まり、結局密閉に近づき本末転倒で、低音が漏れて打ち消し合う分だけ密閉に負けるという悲しい運命を背負っています。トランスミッションラインは吸音材をたっぷり入れた「共鳴させない管」なのでまさにこの運命です。また、長さが必要なのでバスレフや密閉の比ではない大きさになってしまいます。

8 フロントロードホーン
 表側に巨大なホーンを取り付け、裏側を密閉したものです。先の放射インピーダンスで書いたように、振動板がゆっくり動いても空気は周りに逃げてしまうので周りを囲って逃げにくいようにしたもので、低音から高音まで全帯域の音が大きくなります。低音までホーンを効かせる為にホーンの長さや大きさは10m以上にもなり、巨大すぎて家庭には置けません。家庭に置けるよう1mくらいに小型化するとホーンが低音に効かず、低音はそのまま、中高域の音だけが大きくなり音質が劣化してしまいます。更にホーンを何回か折りたたむと反射回折共鳴により多数の周波数で増強や減衰をし、凹凸だらけの劣悪な特性になります。高音質が必要な用途には使われません。大昔は真空管アンプしか無く電力が出せず、音質より能率が求められたのでフロントロードホーンが使われていたそうです。現代では半導体アンプで十分過ぎる電力が出せ、能率より音質が求められるのでフロントロードホーンはほぼ絶滅しました。現代ではその全帯域能率向上効果から、宇宙ロケットの音響試験設備に生存例があります。150dBSPLほど出るようです。

9 バックロードホーン
 裏側に巨大なホーンを取りけたものです。例によって低音まで効く巨大ホーンの出口は10m以上後方になり、そこから拡大した全帯域を放射し、中高音はそのまま後方へ放射されます。低音は大きな遅延を伴い前に回り込んできて表側の低音と打ち消し合いますが、表側の低音より裏側の低音の方が少し大きくなっているので、裏側の低音が勝ち残り少し聞こえます。わざわざ遠回りしてきた逆位相の減衰した低音だけが聞こえます。バスレフの低音が1+1=2だとすと、本形式は1-1.5=-0.5です。そして裏側の低音の遅延時間は一定で、表裏の位相整合は周波数によってまちまちですので増強や減衰ができ凹凸だらけの音になります。例によって家庭でも置けるようにホーンを1mくらいに小型化すると裏側の低音にホーンが効かずそのまま出てきて表側の音と打ち消し合い消滅します。1-1=0です。更に何回か折りたたむと反射回折共鳴により多数の周波数で増強や減衰をし、凹凸だらけの劣悪な特性になります。高音質が必要な用途には使われません。幸いな事に中高音は吸音材で消しやすいので、たっぷり吸音材を入れれば汚い中高音は出にくくなり、低音は裏表で打ち消し合って消え、結局表側の中高音だけが聞こえる事になり密閉に負けます。そもそも何らかの方法で表裏の音が打ち消し合わないようにする必要があるのに、裏側の音をわざわざホーンで拡大して盛大に漏らすと言う、唯一目的が不明の形式です。