エンクロージャーの選び方
エンクロージャーは箱やボックスとも言われます。どのようなユニットとどのようなエンクロージャを組み合わせるかで主に低音の音質が決まってきますので両者のバランスが重要です。車だと車体、パソコンだとマザーボードでしょうか。
★取り付け可能なエンクロージャーとユニット★
エンクロージャーにユニット取り付け穴寸法の丸穴を開け、ユニットを取り付けます。従ってユニット取り付け穴寸法がエンクロージャー内幅以上だと取り付け不可能です。また、ユニット外側寸法がエンクロージャー外幅以上だとユニットがはみ出ます。それ以外にも接続端子や取り付けねじの問題が生じる場合がありますので注意が必要です。
※ユニット外側寸法とはそのユニットの最小の幅です。最大外形ではなく、最小外形です。
※エンクロージャー側面を正面として横向き使いし、ユニットを取り付けるとうまく収まる場合もあります。
★容積★
ウーファーやフルレンジ(以下ユニット)の性能を活かした最大限平坦な特性を得るにはユニットの大きさと特性に見合った容積のエンクロージャーが必要です。これを平坦容積と呼びます。以下に適当な同じユニットを想定し、容積を変化させたときの一般的な傾向を示します。左が密閉型で右がバスレフ型です。平坦容積を緑色で、半分の容積を黄色で、2倍の容積を赤で、それぞれの特性をしまします。
密閉型 バスレフ型
平坦容積はその名の通りそのユニットの能力を最大限引き出した最大限平坦な特性を実現できる容積です。設計の基準となる容積なのでこれを求める方法を後述します。
容積が少な過ぎると途中にピークを生じ一旦盛り上がってから落ち、低音は伸びません。「怒り肩」と言うやつです。場合によっては低音楽器の特定の音階だけが強く聴こえる違和感があります。
容積が大き過ぎると密閉型の場合は平坦容積よりも高めの周波数から徐々に落ち始め、低域は伸びます。「だら下がり」と言うやつです。場合によっては低音の全体的な音圧が小さいので良く注意しないと低音が聞こえないので音楽を楽しめません。バスレフ型の場合は平坦容積よりも高めの周波数から徐々に落ち、低域は伸びて一旦盛り上がってから最後急激に落ちます。「中弛み」と言うやつです。凹凸ができるので場合によっては低音楽器の特定の音階に強弱が付く違和感があったり、バスレフ共振周波数付近の比較的狭い周波数帯域でのみ低音が強くなる変な癖が出てる可能性があります。
このように容積は小さすぎても大きすぎても良くありませんが、実際は平坦容積から多少は外れても大丈夫です。聞こえにくい最低域を犠牲にしてピークによる聞こえやすい「低音出てる感」を作る為や小型化の為にあえて小さくする場合もあるようですし、多少の凹凸と大きさには目を瞑り低音を伸ばす為にあえて大きめにする場合もあります。密閉型の例では容積を2倍とすることで100Hz辺りで-1dBほど下がる代わりに30Hz辺りで2dBほど増えており、バスレフ型の例では50Hz辺りで-1dB程度の凹みができる代わりに30Hz辺りで4dBも増えています。容積が大きい事は低域限界を伸ばす為に非常に有利ですのでお勧めです。それなりの音になる目安としては平坦容積を基準として小さい側は半分程度。大きい側はバスレフ型で3倍程度だと思います。大きすぎると群遅延が増えるので。密閉型の大きい側は、大きくすればするほど空気のばねが効かなくなり、密閉型から徐々に無限平板型に近づいていき、だら下がりで最低域は伸びていきますので、設置場所と予算が許す限り好きなだけどうぞ(笑)
・余談 同じ容積でウーファーを2個にすると、当然1個当たりの容積は元の半分になりますので最低域は減ります。
・ユニットメーカーの推奨容積や良い実績値がある場合
初心者はそれに従う事をお勧めします。ただ推奨容積が平坦容積とは限りませんのでご注意ください。
・ユニットの特性から平坦容積を計算する方法 ~密閉型~
以下の数値が必要です。
最低共振周波数 F0 [Hz]
総合共振尖鋭度 Qts
等価柔軟性空気体積 Vas [ℓ]
ユニットをエンクロージャーに取り付けるとQtsとF0が同じ比率で上昇し、それぞれ取り付け時総合共振先鋭度Qtcと取り付け時最低共振周波数F0cに上昇します。Qtc = 1/√2 = 0.707の時に最大限平坦な特性になります。Qtc = 0.707 とした場合は、次式から分かるようにQtsが0.707に近いユニットほど加速度的に容積が大きくなり、Qtsが0.707以上のユニットでは平坦特性は不可能です。またQtcやF0cに自分が許容できる数値を代入すればそうなる容積が求まります。まず上昇比を求めます。
上昇比 = Qtc / Qts = F0c / F0
次に上昇比から内容積係数を求めます。
内容積係数 = 上昇比2 - 1
密閉型の平坦容積は次式で求まります。
容積 [ℓ] = Vas [ℓ] ÷ 内容積係数
・ユニットの特性から平坦容積を計算する方法 ~バスレフ型~
以下の数値が必要です。
総合共振尖鋭度 Qts
等価柔軟性空気体積 Vas [ℓ]
バスレフ型の平坦容積は次式で求まります。
平坦容積[ℓ] = 20 × Qts3.3 × Vas[ℓ]
・ユニットの諸元数値が分からない場合に容積を決める極めて乱暴な方法
経験式を用いてユニット口径から容積を求めます。よほど特殊な特性のユニットでなければ意外とそれなりの音になる場合が多いと思います。特にバスレフ型はダクトで低音を調整できるので、容積くらいしか調整できるところの無い密閉型よりは楽です。
ユニット口径 [mm] | 100 | 130 | 160 | 200 | 250 | 300 | 380 |
経験容積 [ℓ] | 2.5 | 5.5 | 10 | 20 | 39 | 68 | 137 |
乱暴な経験式を載せときますので中間寸法のユニットは計算してみてください。
経験容積[ℓ] = ユニット口径[mm]3 × 2.5 ÷ 106
注意点は枠や装飾枠やエッジが太い場合や、振動板が四角い場合など、何らかの理由でユニット口径に対して有効振動板面積が一般値から外れる場合は実質換算して考える必要があります。フルレンジの平坦容積はこの式より大きい場合があります。逆に自動車用ウーファーやサブウーファーの平坦容積はこの式より小さい場合があります。F0やQtsが一般値から外れるバックロードホーン向けや後面開放型向けやPA向けや特殊なユニットはこのやり方は避けた方が無難です。
世の中の多くのスピーカーの容積は平坦容積より小さい場合が多いように感じます。この経験式は平坦容積の経験値ですので、市販品より大きめの場合が多く、低音が出やすい傾向にあると思います。
・余談 世の中には20cm80ℓバスレフとか、16cm60ℓバスレフという一級品のスピーカーが存在します。ダクトも巨大です。これを見ると大きい分にはかなり自由なんじゃないかとか、どれくらいバスレフ共振してるのだろうかとか、インピーダンス曲線測ってみたいとか思ってしまいます。
★材質★
材質はMDF(Midium Density Fibarboard)で、木を非常に微細な繊維に粉砕し接着剤を加え圧熱プレスで固めたものです。比較的密度が高く加工しやすく、割れ、欠け、バリも出にくく、寸法精度が良く反りや方向性も無いので正確に組立ち、剛性や気密を確保しやすいです。端材や再利用素材からも製造できるので、木の伐採量と二酸化炭素排出量を削減できます。なお大きさに対して十分な板厚や剛性や遮音性を確保すれば、木の種類の違いによる音の違いはありません。
参考 木の比重
ハードボード | バーチ | タモ | MDF | チーク | シナ 針葉樹構造用合板 | ラジアタパイン | 檜 | 桐 |
0.8~0.9 | 0.69 | 0.65 | 0.62 当店実測 | 0.6 | 0.5 | 0.49 | 0.3~0.35 | 0.2~0.3 |
★形状★
※穴や追加工は例です。
| ||||
標準型 Standard 幅より奥行きがある近年の一般的な形状。横向き使いで奥行より幅のある伝統的な形状になります。 | 薄型 Thin 標準型の容積はそのままに、奥行きを薄くし、その分上に伸びた形状。設置面積が小さいので使いやすい。転倒注意 | 大型 Large 一段階大きい想定口径の容積との間を埋める為に標準型を上に伸ばし約1.4倍の容積としました。低域を稼ぎやすい。 | 背高型 Tall 更に上に伸ばし、標準型の約2倍の容積を確保。ウーファー1個で最低域を拡張したり、ウーファー2個で仮想同軸にも向きます。転倒注意 | 台形 Trapezoid バッフル面を斜めにし全体を台形にしたことで幅を抑え、ほぼ一段階小さい幅にしました。逆に言うとほぼ同じ幅で一段階大きなウーファーを搭載可能。またスピーカーを真っ直ぐ設置すればバッフル面が内側を向く。 |
形状が5種類。想定口径が7段階。側面を正面としてユニットを取り付けて使う横向き使いや、上面を正面とする上向き使いも可能ですので向きが3通りあります。これらの中からお客様のご希望のユニットの大きさや容積や設置場所に合うものをお選びいただけます。
想定口径とは目安です。その口径のユニットを取り付けた時におおむね収まりが良く、当店の経験容積を確保できる口径です。目安ですのでその口径のユニットを取り付けなければならない訳ではありません。想定口径が一段階大きくなると容積は約2倍になります。大型は標準型の約1.4倍、背高型は標準型の約2倍の容積です。
想定ユニット口径 | 形状 | 容積 [ℓ] | 板厚 | 外幅 | 外高さ | 外奥行き | 内幅 | 内高さ | 内奥行き |
100 | 標準型 | 2.5 | 12 | 120 | 242 | 144 | 96 | 218 | 120 |
薄型 | 346 | 106 | 322 | 82 | |||||
大型 | 3.7 | 144 | 120 | ||||||
背高型 | 5.0 | 458 | 434 | ||||||
130 | 標準型 | 5.5 | 156 | 292 | 180 | 132 | 268 | 156 | |
薄型 | 390 | 138 | 366 | 114 | |||||
大型 | 7.5 | 180 | 156 | ||||||
背高型 | 11 | 558 | 534 | ||||||
160 | 標準型 | 10 | 15 | 192 | 360 | 222 | 162 | 330 | 192 |
薄型 | 490 | 168 | 460 | 138 | |||||
大型 | 14 | 222 | 192 | ||||||
背高型 | 21 | 690 | 660 | ||||||
200 | 標準型 | 20 | 18 | 240 | 446 | 276 | 204 | 410 | 240 |
薄型 | 608 | 208 | 572 | 172 | |||||
大型 | 28 | 276 | 240 | ||||||
背高型 | 40 | 854 | 818 | ||||||
250 | 標準型 | 39 | 21 | 300 | 548 | 342 | 258 | 506 | 300 |
薄型 | 706 | 270 | 664 | 228 | |||||
大型 | 51 | 342 | 300 | ||||||
背高型 | 91 | 1218 | 1176 | ||||||
300 | 標準型 | 63 | 24 | 360 | 606 | 408 | 312 | 558 | 360 |
薄型 | 900 | 286 | 852 | 238 | |||||
大型 | 96 | 408 | 360 | ||||||
背高型 | 131 | 1218 | 1170 | ||||||
台形 | 75 | 312 | 900 | 468 | 264 | 852 | 409 | ||
380 | 軽量型 | 104 | 450 | 912 | 348 | 402 | 864 | 300 | |
標準型 | 114 | 30 | 708 | 510 | 390 | 648 | 450 | ||
薄型 | 118 | 908 | 418 | 848 | 358 | ||||
大型 | 149 | 510 | 450 | ||||||
背高型 | 239 | 1422 | 1362 | ||||||
台形 | 126 | 390 | 908 | 617 | 330 | 848 | 544 | ||
想定ユニット口径 | 形状 | 容積 [ℓ] | 板厚 | 外幅 | 外高さ | 外奥行き | 内幅 | 内高さ | 内奥行き |
※長さの単位はmm
※大きめのウーファーを付けたいときは横向き使いで側面に取り付けるとうまく収まる場合もあります。
※460mm級やこの表にない寸法のエンクロージャーも特注で承ります。
★補強★無料★
補強はエンクロージャー本体に無料で標準装備いたします。スピーカーは楽器ではないので「エンクロージャーの響き」というノイズを極力減らす必要があります。その方法の一つが補強です。少ない補強材で効果的に剛性を高める為に、極力膜振動の最大変位点を抑えるよう、ヤング率が高く幅より高さのある補強材を使用し断面二次モーメントが大きくなるよう、トラス構造に近づくよう、振動モードがより高次・高周波数になるよう、規則正しい配置や直角や平行を避けて無秩序な配置にして特定の周波数ピークができにくいよう、補強を行います。実際の補強は箱の大きさや形状や穴次第で一品一品異なるので、大変申し訳ありませんが明記できません。場合によっては補強の多少や位置や補強面が変わる可能性があります。従って以下は仕様ではなく目標です。各エンクロージャーの商品ページに補強例や制作例の写真を載せてありますので参考にどうぞ。
①バッフル裏面の一番大きな穴の両側に、補強材をそれぞれ最低1本は貼り付けたいです。
②背面に補強材を最低1本は貼り付けたいです。
③エンクロージャーの穴開けでくり抜いた大きな円盤があれば、補強と転倒防止を兼ねて床面奥に貼り付けたいです。床面に貼り付けられない場合は背面下部に貼り付けたいです。大きな円盤が2つ以上ある場合は底面と背面下部に貼り付けたいです。
④大きいエンクロージャーほど補強も多くなります。逆に想定口径100mm級と130mm級のエンクロージャーは大きさに対して板厚が厚く十分な剛性があるので、①のみです。
補強例
★丸め加工★面取り加工★別料金★
バッフル面の周囲4辺に丸め加工又は45度面取り加工をいたします。両方同時はできません。丸めや面取りの大きさは板厚を基本とし、工具の都合で多少増減します。追加工の分バッフル面の平面部分が狭くなりますので追加工部へユニットがはみ出ないようにご注意ください。多少はみ出すくらいは問題ありませんが、追加工部と取り付け穴が繋がってしまうと、隙間ができてエンクロージャーが空気漏れを起こしてしまいます。料金はエンクロージャごとに異なりますので各エンクロージャーの商品ページをご覧ください。
丸め加工例 面取り加工例
お客様に指示を頂き穴開け加工をいたします。お客様がお持ちのユニットやバスレフダクトなどを取り付けたい場合などにご利用ください。当店販売部品やユニット取り寄せやユニット送付の料金にはそれらを取り付ける為に必要な穴開け料金も含まれていますので本加工は不要です。単に穴が必要な場合にご利用ください。
形状は真円のみです。穴の位置と直径を配置指示書に「穴A直径XXmm 穴B直径XXmm」と記入してご指示ください。最大直径はエンクロージャー内側寸法です。精度は0~+2%です。穴の壁面は穴にユニットやバスレフダクトを取り付けて見えなくなる前提ですので、材質と工具の成り行きです。下図よりも荒れていると思っておいていただけけますでしょうか。料金は基本料金 + 直径比例料金です。
穴開け加工例 手前は10mmの杉 奥は21mmのMDF
先の穴開け加工部に追加で座繰り切り加工をいたします。穴開け加工がない場合は座繰り加工はできません。バッフル面にユニットやバスレフダクトなどを埋め込んで表面を平らにしたい場合などにご利用ください。
形状は真円のみです。座繰り加工部が穴開け加工部や丸め加工部と干渉すると、おかしな形状になったり欠ける場合があるので干渉にご注意ください。座繰りの位置と直径と深さを配置指示書に「座繰りA直径XXmm深さXXmm 座繰りB直径XXmm深さXXmm」と記入してご指示ください。直径は最大470mm、精度0~+2%です。最大深さは15mm又は板厚-2mmのどちらか小さい方、精度±0.5mmです。座繰り加工部の側面と底面は座繰り加工部にユニットやバスレフダクトを取り付けて見えなくなる前提ですので、材質と工具の成り行きです。下図よりも荒れていると思っておいていただけけますでしょうか。料金は基本料金 + 直径比例料金です。
座繰り加工例
★切り欠き加工★無料★
先の穴開け加工部に追加で切り欠き加工をいたします。穴開け加工がない場合は切り欠き加工はできません。切り欠き形状は現物があれば現物合わせが理想です。無い場合は図面で指定していただければ無料で行います。加工方法は形状と材料次第で、ジグソーかルーターか手鋸か手やすりか成り行きです。切り欠き部分はユニットを取り付けて見えなくなる前提ですので、材質と工具の成り行きです。下図よりも荒れていると思っておいていただけけますでしょうか。
切り欠き加工例 ジグソー使用