バスレフダクトの選び方
バスレフ型の場合はダクトをご注文ください。ダクトの注文が無い場合は自動的に密閉型になります。
ダクトはバスレフ型スピーカの低音の質を左右する大事な部品です。ユニットメーカーの推奨値や信用できる実績値がある場合はそれに従うことをお勧めします。選定例も載せてあります。
当店が周波数特性を実際に測定しながらダクト長を次々と変更し、そのユニットとエンクロージャーで最大限平坦な特性になるようダクト長をチューニングいたします。音を実測しますのでTSパラメーターが不明でもチューニング可能です。バスレフの事が良く分からない場合や音質を求める場合は当店にお任せください。
★ヘルムホルツ共振周波数★
バスレフ型スピーカーの低音の質を左右する大事な数値です。ヘルムホルツ共振周波数自体はエンクロージャー容積とダクトの断面積と長さで決まります。ただ実際に音圧を伴ってヘルムホルツ共振させられるかどうかはユニットの能力次第です。例えば100ℓの箱に10cmユニットとヘルムホルツ共振周波数が20Hzになるようなダクトを取り付けても20Hzの音は出ないという事です。 適当なユニットとその理想容積の箱を想定し、ヘルムホルツ共振周波数の違いによる一般的な傾向を右図に示します。最大限平坦な特性を得られる理想ヘルムホルツ共振周波数を緑色で示し、理想より高い場合を黄色で、理想より低い場合を赤色で示します。この例では理想は40Hzで、高いのは50Hz、低いのは30Hzです。 ヘルムホルツ共振周波数が高すぎると高めの周波数から徐々に一旦盛り上がってから落ち、低音は伸びません。場合によっては低音楽器の特定の音階だけが強くなる違和感があります。逆に低すぎると理想より高めの周波数から徐々に下がっていきます。場合によっては全体的な低音の音圧が小さいので良く注意しないと低音が聞こえないので音楽を楽しめません。 このようにヘルムホルツ共振周波数は高すぎても低過ぎても良くないので、ユニットの特性とエンクロージャー容積に応じた適切なヘルムホルツ共振周波数に設定することが理想です。ただ設計方針によってはエンクロージャー容積のようにあえて理想値から外す場合もあります。 |
★エンクロージャー容積★
大きいとヘルムホルツ共振周波数は下がり、小さいと上がります。容積が大きすぎるとヘルムホルツ共振周波数付近でのみヘルムホルツ共振が強く効く独自の音になる傾向にあります。
★ダクト断面積★
小さいとヘルムホルツ共振周波数は下がり、ヘルムホルツ共振による低音は出にくく、比較的幅広い帯域でヘルムホルツ共振が弱く効きます。ただ音量を上げた場合にダクト内の流速が上がり、「バフバフ」と風切音が出やすくなります。大きいと逆です。従って適切なダクト断面積を選ぶ事が大事です。本来はダクト内流速やダクト縦横比やパワーコンプレッションを考慮して決めますが、ここでは簡易的な方法として、ユニットの実効振動板面積に対してダクト断面積がどれだけあるかという面積比で選ぶ方法をご紹介します。以下におよその目安を示します。
5%以下 お勧めしません。
10%前後 低音も変な癖も比較的出にくいです。低音増強効果が弱くても何とかなる大口径や、低音の量より質を求める場合にお勧め。ただ音量を上げると風切音が発生しやすいので大音量は苦手。
15%前後 当店や世の中の多くのバスレフ型スピーカーはこの辺りに収まっています。バランスが良い。
20%前後 ウーファー口径とエンクロージャー容積が比較的大きい場合はこれくらいにすると長さとのバランスが取りやすい。
25%前後 サブウーファーなど、比較的小容積でヘルムホルツ共振周波数を低くする場合はこれくらいないと風切り音が出やすい。ただしダクトが長くなるので結構厳しい。
30%前後 ダクトが太く長くなってくるので配置が難しくなってきます。
40%前後 低音も変な癖も比較的出やすくなってきます。昔のスピーカーはこれくらいのものが多かったようです。
50%以上 スピーカーをきちんと理解して設計できる方以外にはお勧めできません。巨大なエンクロージャーでないとダクトの配置が困難だと思います。
100% ダクト断面積と実効振動板面積が同じという事です。理論的には大丈夫ですが、実際は現実的な大きさに収まらないのでお勧めできません。
当店ではダクト断面形状は最も高音質高効率な円形を採用していますので、断面積はダクトの内径の2乗に比例します。ダクトには水道用硬質ポリ塩化ビニル丸管を使います。以下に内径と外径と断面積を示します。ご希望の断面積にならない場合は細いダクトや太さの異なるダクトを複数本使うと良い場合もあります。
ダクト内径 [mm] | ダクト外径 [mm] | ダクト断面積 [mm2] |
25 | 32 | 491 |
31 | 38 | 755 |
40 | 48 | 1257 |
51 | 60 | 2043 |
67 | 76 | 3526 |
77 | 89 | 4657 |
100 | 114 | 7854 |
125 | 140 | 12272 |
★ダクト長さと計算式★
長いとヘルムホルツ共振周波数は下がり、癖は出やすく、ダクト単体の気柱共鳴音は出やすくなる傾向にあります。短いと逆です。極端に短いとエンクロージャー内部の定在波や中高音が聞こえやすい場合がありますので注意が必要です。長さは下式で求めます。
ダクト長さ[mm] = 3000 × ダクト断面積[mm2] ÷ ヘルムホルツ共振周波数[Hz]2 ÷ エンクロージャー容積[ℓ] - ダクト直径[mm] × 開口端補正係数
開口端補正係数には下図のようにダクトの両端の形状に応じた係数を代入します。この計算式と実測値はだいたい合います。ユニットや補強部材やダクト自体の体積を補正してやれば更に良く合います。
直管と直管 0.614 直管と壁 0.732 壁と壁 0.850
切断精度は±4mmとします。またダクトが長くなり、取り付けた反対側の面にぶつからないようにご注意ください。奥行きが薄いエンクロージャーで太く長いダクトを使うとぶつかりやすいです。
★まとめ★
ヘルムホルツ 共振周波数 |
ヘルムホルツ共振音圧 (ダクトからの低音) |
癖 (ヘルムホルツ共振周波数付近の 比較的狭い周波数帯域でのみ強く共振) |
||
エンクロージャー 容積 |
小さい | 高い | 小さい | 出にくい |
大きい | 低い | 大きい | 出やすい | |
ダクト 断面積 |
大きい | 高い | 大きい | 出にくい |
小さい | 低い | 小さい | 出やすい | |
ダクト 長さ |
短い | 高い | 大きい | 出にくい |
長い | 低い | 小さい | 出やすい |
断面積を大きくし過ぎないこと、小容積で共振周波数を下げ過ぎないことをお勧めします。
★複数ダクト★
皆さんやりたいですよね(^^) 複数ダクトにすると合計ダクト断面積を細かく調整できます。またダクト単体の気柱共鳴音を分散させることもできます。ただ縦横比が増えてしまうという弊害もあります。長さの異なるダクトを複数本使ってもヘルムホルツ共振周波数は複数にはならず、単一の共振周波数でヘルムホルツ共振します。断面積は合計断面積で、長さは平均長さで動作します。計算もそれで大丈夫です。
2本目以降は値引きいたします。
複数ダクトで当店お任せチューニングの場合は不自然にならない範囲で各ダクトの長さを分散させます。
★取り付け面★
前後左右上下のお好きな面に取り付け可能です。前面が最も低音が良く聞こえますが、付帯音も聞こえやすい場合があります。後面だと低音も付帯音も聞こえにくく、更に設置場所や壁の影響を受けやすくなってしまいます。付帯音はある程度消せますので、設置環境に影響されにくい前面がお勧めです。
★選定例★
適当なウーファーを想定してダクトの選定例を示します。
・ウーファー有効振動板半径 80mm
・エンクロージャー容積 20ℓ
・目標ヘルムホルツ共振周波数 55Hz
・目標ダクト断面積割合 20%
まず断面積を決めます。ここではダクト断面積が振動板面積の20%程度になるように直径を選びます。有効振動板面積は有効振動板半径80[mm]2× π = 20106[mm2] です。この20%は 20106[mm2] × 0.2 = 4021[mm2]です。直径と断面積の表を見るとダクト直径67mmか77mmが近くて良さそうです。ここでは断面積を欲張らずに67mmとします。67mmのダクトの断面積は3526mm2ですので、ダクト断面積割合は 3526[mm2] ÷ 20106[mm2] = 0.175 = 約18%です。若干細めなので質の良い低音が期待できます。
次にヘルムホルツ共振周波数からダクト長さを決めます。ダクトはバッフル面という壁に取り付け、内部は直管ですので、開口端補正係数は0.732を用います。
ダクト長さ[mm] = 3000 × 3526[mm2] ÷ 55[Hz]2 ÷ 20ℓ - 67mm × 0.732 = 126mm