ネットワークの選び方

 ネットワークとは正確にはディバイディングネットワークと言い、アンプからスピーカーに入力された電気信号を各ユニットに適した周波数帯ごとに分割する電気回路です。フィルターです。ツィーターには破損防止の為にローカットハイパスフィルターが必須です。減衰器はディバイディングネットワークではないのですがここで述べます。

 ネットワークはユニットとエンクロージャーの組み合わせに対して唯一無二の専用品です。なぜならユニットごとに特性が異なりますし、例え同じユニットでもエンクロージャーが異なれば音が異なり、従って最適チューニングも異なるからです。どんなに高性能なユニットを使っても、それらを活かすも殺すもネットワーク次第です。


選び方1 周波数特性を測定しながら素子定数を選ぶ 推奨

 実際に使用するユニットを実際に使用するエンクロージャーに固定した状態で音を実際に測定しながら素子定数を選びます。量産品と違い、ユニットの個体差までも考慮したチューニングが可能ですので、各ユニットの性能を極限まで引き出した最高音質を実現できます。技術と経験と設備が必要です。数百機種のチューニング経験のある当店が最も得意とするところですので、ネットワークの事が良く分からない場合や最高音質を求める場合は当店にお任せください。


選び方2 シミュレーションソフトで選ぶ

 諸元値を入力するとF特などを計算してくれて便利です。しかしユニットメーカーが公称している諸元数値やグラフは実際とかなり異なるので、それを使って得たシミュレーション結果も実際とかなり異なります。シミュレーションの精度を向上させるには全入力データを精度良く測定する必要があり、更にシミュレーション結果が本当に正しいかどうかを実際に測定して確認する必要があります。結局「選び方1」の方が早くて楽で確実です。


選び方3 付属品を使う。

 車載用などでよくあるユニットとネットワークのセットを使用する場合は取り付け料を頂ければ取り付けいたします。ただネットワークというものはチューニング時と同じユニットと同じエンクロージャーを使って初めて同じ音を再現できます。付属のネットワークはどんなエンクロージャーにユニットを取り付けてチューニングされたのか謎で、極性すら謎なのでお勧めできません。実際自動車用ユニットをチューニングすると極性は正になる時も逆になる時もあります。F特に大体はあっても、極性に大体はありません。特に自動車用はウーファーとツィーターが別の場所に取り付けられる前提なので音質を気にしたら負けです。そもそも付属ネットワークはチューニングしたのかどうか不明です。


選び方4 計算で選ぶ。汎用品を使う。

 各ユニットの周波数特性と位相特性とインピーダンス特性が一定という現実にはありえない仮定をして計算で素子定数を選びます。汎用品というのは例えば「2.5kHzクロス 8Ω用 12dB/oct」といった感じの組み立て済みのネットワークの事です。素子定数は先の現実にはあり得ない仮定をして計算で選んだものです。両者とも測定しないのでどんな音かは不明です。測定してみると殆どの場合チューニングが合わないので、音質はどうでも良いので簡単で安い方が良い場合にどうぞ。計算で選んだ素子定数で完璧という偶然が極稀にあります(笑)


選び方5 他機種用流用

 ネットワークはユニットとエンクロージャーの組み合わせに対して唯一無二の専用品ですので、専用品を他に流用すると当然チューニングは合いません。応急処置くらいにはなるので一応書いておきます。ツィーターだけを交換したり、ウーファーだけを交換するのも同様です。


★当店お任せチューニング★ 推奨

 先の選び方1です。当店が周波数特性を実際に測定しながら素子定数の選定のみを行います。ネットワークの製作代は含まれておりません。お客様はフィルター次数を選ぶだけです。あとは当店が周波数特性を測定しながら最大限平坦な特性になるように素子定数を選定いたします。ウーファーを正相接続とし、ウーファー以外は、正逆両方の接続極性を測定し、正しい極性とします。減衰器は実測結果を元に必要と判断した場合に追加選定いたします。選定の判断は純粋に高音質化の為に行います。売り上げの為に減衰器を付けたり素子定数を大きくする事は絶対にありません。そもそも素子定数が大きくなっても当店の利益は増えません。料金は選定料金 + 複数同一ユニット追加料金です。複数同一ユニットとはダブルウーファーやダブルツィーターの場合の事で、複数同一ユニットが1個増えるごとに追加料金がかかります。

 素子定数選定と共にネットワーク製作が必要な場合は、素子定数選定後に素子料金と減衰器料金を追加請求いたしますので、その入金確認ができ次第ネットワークを制作し、スピーカーに組み込み、商品を発送いたします。又は初めに多めに預り金をお支払いいただき、素子代金を引いてお釣りを返却する方法も可能です。ごまかしはできませんのでご安心を。


★素子と定数と標準数★

 オーダーメイドスピーカー(全部指定)では標準数E12系列の定数の素子を取り扱っております。1段階の差は約20%です。下図は適当なツィーターに0.68μFから15μFまでのE12系列の17種類のコンデンサを直列接続したときの周波数特性の変化です。縦軸の尺度から見て十分細かく刻む事ができ、高精度チューニングが可能だと分かります。

 

 使用する素子は全て新品で、素子の定数と耐入力は以下の通りです。定数によりメーカーや細かい特性は異なります。フィルムと電解、芯有りと芯無しの混合も可能です。

素子 定数 仕様
両極性電解コンデンサ

標準数E12系列

1 1.5 2.2 2.7 3.3 3.9 4.7 5.6 6.8 8.2 10 12 15 18 22 27 33 39 47 56 68 82 100 [μF]

耐圧50V以上
フィルムコンデンサ

標準数E12系列

0.68 0.82 1 1.2 1.5 1.8 2.2 2.7 3.3 3.9 4.7 5.6 6.8 8.2 10 12 15 18 22 27 33 39 47 56 68 82 100 [μF]

耐圧100V以上

芯有りコイル
芯無しコイル

標準数E12系列

0.1 0.12 0.15 0.18 0.22 0.27 0.33 0.39 0.47 0.56 0.68 0.82 1 1.2 1.5 1.8 2.2 2.7 3.3 3.9 4.7 5.6 6.8 [mH]

線径1mm以上

セメント抵抗

標準数E6系列

0.68 1 1.5 2.2 3.3 4.7 6.8 10 15 22 33 [Ω]

耐入力10W以上


 当店におけるチューニングとは3Way 12dB/oct 減衰器付きの場合、上記素子定数の組み合わせ約1京通りの中から最も音質の良い唯一無二の組み合わせを見つけ出す事です。


★減衰器★

 減衰器はアッテネーターとも言い、ウーファーよりツィーターの能率が高い場合に、ツィーターに加わる電圧を減衰器で減衰させ、両者の能率を等しくし音圧特性の平坦化を狙う電気回路です。抵抗1個を直列に接続する方法と、抵抗2個を直列と並列に接続する方法があります。

 抵抗1個式の場合は、抵抗値によって減衰量と合成インピーダンスが連動して変化します。ユニットのインピーダンス特性の影響を比較的受けやすいので、比較的減衰量が少ない場合に適します。原理と挙動を把握し適切に使えば必要十分な性能を得られる場合が多い。

 抵抗2個式の場合は、直列抵抗値と並列抵抗値の組み合わせによって様々な減衰量と合成インピーダンスの組み合わせが得られ、自由度が高い。能率と合成インピーダンスを同時に調整する事もできます。ユニットのインピーダンス特性の影響を比較的受けにくい。


★フィルター次数★

 素子数 = フィルター次数 = 費用です。一つのフィルターに対して使用する素子の個数によって次数と減衰率が変わります。フィルターごとに異なる次数でも組めます。正相接続か逆相接続かは測定しない限り不明です。

次数減衰率特徴回路例
16dB/oct

肩特性を弄れない。

素直な特性のユニットの場合

安く済ませたい場合

212dB/oct

肩特性を弄れる。

必要十分な性能を得られる場合が多い。

性能と費用のバランスが良いのでお勧め。

318dBoct

肩特性を柔軟に弄れる。

頑固な癖を持ったユニットの場合

最低共振周波数の歪みや高域共振をしっかり落としたい場合

424dB/oct

肩特性を柔軟に弄れる。

複雑で面倒で費用が掛かるのでやりたくない。


★ネットワークの製作と実装★

 先のチューニングで選定した素子定数で、実際にネットワークを製作しスピーカーに組み込みます。申し訳ありませんが、これまた1品1品事情が異なり実装方法も異なるので明記できません。ツィーターにコンデンサ1個の場合は直接ツィーターの裏に接着する場合もあります。素子数が少ない場合は端子台やエンクロージャーに接着する場合もあります。増えてくると木の板に接着して、エンクロージャにねじ止めする場合もあります。素子の固定は接着やタイラップです。コイルは極力間隔を空け、向きも極力無秩序で、散らして配置いたします。接続は極力圧着端子を用い、はんだは極力避けます。以下は制作例です。


2Way 12dB/oct 芯有りコイルと芯無しコイルの混在 抵抗1個式減衰器

2Way 12dB/oct バイアンプ用にウーファー用回路とツィータ用回路を分離

3Way 12dB/oct 直流抵抗が小さい芯有りコイルでチューニングがビシッと決まる。

5Way 12dB/oct 素子数が多く複雑。極力散らして配置。0.68μFのみフィルム

2Way 12dB/oct クロス周波数が低めなので素子が大きめ

2Way 12dB/oct 箱が小さいので高密度

★素子定数が分かっている場合の注文方法★

 ご希望の素子を買い物かごに入れてご注文ください。

 2Wayの6dB/octよりも複雑、つまりコンデンサやコイルが2箇所以上ある場合はどれがどこか分からないので右図のようなネットワーク指示書を作りましたのでこれに素子定数や接続極性などをご記入いただけますでしょうか。使い方は中に書いてあります。

   →ネットワーク指示書

 2Wayの6dB/oct以下の場合は注文内容から判断できるので指示書は不要です。特に指定がない限り正相接続いたします。